惜しくも第三次選考を通過されませんでした10作品の選評です。

※敬称略、順不同

「準備室の霊子さん」太田隆司

『絶叫学級』を思わせる作品で、大変読みやすかったです。ただ、設定、ストーリーともに“オリジナリティ”という部分が弱いと感じました。また、それぞれのオチのシーンが急ぎ足で描かれており、わかりづらい印象も。何か一つ、この作品ならではの「特徴」もしくは「売り」ポイントがあると強いと思います。

「守れ猫又！恋せよ乙女！」戸松亮子

72ページあるうち、36ページ目まで、本筋に入らないのがもったいなく感じます。前半は恋愛ものかと思いきや、そうではなくバトルものに変わっていきます。早めに、「好きな男の子と対決しなければいけない」という設定を描くべきでは？　猫又の存在は可愛かったです。

「座敷わらし・小鞠、初めての江戸　〜はかない恋の行方をおいかけて〜」戸松亮子

読者が「共感できるかどうか」ということを、もっと意識して書くといいと思います。人間ではなく妖怪が主人公、現代ではなく江戸時代の設定、という段階で読者にとっては手にとるハードルが高くなります。また、主人公の「小鞠」自身の身に何かが起こるわけではないので、切迫感に欠けるのがマイナスポイント。作者が楽しんで書いているのは伝わりました。

「シークレットペット」柳律斗

「自分の好きなものを隠さなくてもいい」というメッセージはすばらしいと思います。ただ、それを伝えるために「爬虫類のペット」を題材にするのは、共感を得やすいものではないため、得策ではないのでは？　スマホのアプリやVRがでてきますが、みらい文庫読者には身近とはいいがたいです。ただ、文章はとても読みやすかったです。

「ネバー・エンディング・ラズベリー」月森乙

一編集者の意見ですが、「児童文庫」と「児童書」は似て非なるものです。この作品は児童書です。個性的なキャラや小学生に向けた文章の読みやすさはいいだけに、設定やテーマ選びが児童文庫向けではないのが残念です。大多数の児童文庫の読者と同様に現代の日本の小学校に通う小学生が主人公の作品に挑戦してみるのもひとつの手段だと思います。

「ナゾの美少女モデルにされちゃった、ボクの事件簿１」福土るか

男女どちら向けなのか意見が分かれる作品でした。主人公や言葉の選び方は男子向けなのに、物語の展開は女子向けというアンバランスさが気になります。みらい文庫の主な読者層は小学５年生です。美少女モデルの物語が読みたいと思う小学５年生は男女どちらでしょうか。

「本とサッカーと不思議な冒険」稲葉海三

現実世界と異世界がサッカーでつながる設定は面白かったです。しかし、ライトノベルの読者に向けて書いていると思える描写が多く、児童文庫の読者を強く意識されていなかったことは改善点です。「ゴーレム」「ループシュート」など説明なしでどれくらいの子どもたちがイメージできるか再考してみてください。

「カレはオリジナル！」橋長あこ

テンポよく話が進み、最後までスラスラ読めるのは文章を書く基礎力があるからでしょう。しかし、最後まで読んでもこれといって特徴がなく、強烈な印象が残りませんでした。終盤になっても物語のプロットを遂行するために説明に終始する一文が多く、「個性」という点で物足りなさを感じました。

「キャラ！」村山むら

冒頭から読者を惹きこむ工夫がありました。文体も小学生向けで読みやすいですが、物語に予定調和な印象を受けました。男子向け作品を志向するならもっと突きぬけた何か（たとえば、圧倒的な「熱量」だったり「笑い」だったり）が読みたいです。また、タイトルも読む前からもっと楽しみになるようなタイトルがこの作品にはあるはずです。

「合言葉はタカマガハラ！」ラッコ

キャラがよかったです。小学生、特に低学年に向けて書きたいことがあるということが伝わってきました。しかし、導入で読者を惹きこむ力が弱かったです。ＨＰのワンポイントアドバイスでも書いていますが、１行目から物語は始まっています！　読者を限定せずにできるだけ多くの読者を惹きこむ工夫が足りなかったと思います。