 
    
  厳正なる選考の結果、以下の二作品が受賞作に選ばれました。
大賞:該当作なし
優秀賞『ごしなん!』
藍沢羽衣(あいざわ うえ)

【受賞コメント】
このたびは素晴らしい賞を授けていただき、身の引き締まる思いです。選考委員の先生方、関係者の皆様には心よりの感謝を申し上げます。私は小学生の時からずっと算数が苦手で、大人になった今でも苦労しているので すが、こんな私でも楽しく読める数学の物語に出会っていたら、「苦手」が「好き」に変わっていたかも?なんて思ったのが、受賞作に挑戦したきっかけです。読者が夢中になれる作品を生み出し続けていける作家を目指し、頑張ります。
【あらすじ】
小5のこよみは、ある日、和紗という美少女に出会う。和紗は、「和算」の塾をひらいているという。「和算」とは、日本に古くから伝わっている数学のこと。算数のテストで点がとれないこよみは、さっそく入門させてもらうが……。
優秀賞『闘うカノン』
中村天音(なかむら あまね)

【受賞コメント】
この度は思いがけなくすばらしい賞をいただき、心から感謝しております。演奏は下手だけど……いや、だからこそ大好きな音楽を題材にしたお話を書きたい!中学生の友情、仲間、青春を書きたい!という思いがあふれ、勢いのままに書いた作品です。今後は、未来あるたくさんの少年少女たちに物語をお届けできるよう、編集部の皆さまをはじめ、たくさんの方々に助けていただきながら頑張りたいと思います。
【あらすじ】
結はピアノが大好きな中学二年生。音楽をエネルギーに変換するシステムの開発に協力することになり、合宿が始まる。同じチームには、音楽が好きじゃないと公言する奏と、合奏には興味がないという九能がいて……?

6月吉日、都内の会場にて選考会が行われました。
三次選考を通過した3作品について議論を重ねた結果、大賞の該当作はなし、優秀賞は2作品の受賞が決定いたしました。
以下、先生方にいただいた選評です。(50音順)

あさのあつこ先生
                    『書くことの責任と覚悟を』
  書くことについて、わたし自身が深く内省を促される、そんな選考会となった。    最終候補作の三編は、どれも読み易く、まとまっていた。破綻がない。きちんと作品世界がまとまっているのだ。ただし、わたしは、それを美点というより、欠点のように感じてしまった。作者のこれだけは伝えたい、この物語だけは読んでもらいたい、そんな必死の想いがあまり響いてこなかったのだ。わたしの鈍感さの故か?と、少しおののいたりもしたのだが、他の選考委員も同様の感想をお持ちだったので、一安心……ではなく、些か考え込むことになった。
                       新人の武器は、読みやすさでなく、まとまりでなく、この一作に賭けるという意気込みと粗削りでも新鮮で個性的な世界ではないのか。挑戦者、開拓者の意気込みがなくては、新人は、いや、これからの作家は生き残れないと心して欲しい。
                          『ごしなん!』は、和算というモチーフには惹かれたが、和算のおもしろさが生きていない。それは、登場人物が人でなく物語を進める駒としてしか機能していないからだ。藍沢さん、物語とは人を描くものです。もっとあなたの書かねばならない人に拘泥してください。
                             『変身なんかしたくない!』は、おもしろく読めた。読ませる力のある書き手だと思う。ただ、あまりにすらすらと読めて、読後、余韻がない。ストーリーに追われて、個性と血肉のある人物を生み出すことまで手が回らなかったとの印象を受けた。よもや、軽やかに書けば軽やかな読み物になると考えたわけではないだろうが。それにしても、二作とも「!」をタイトルに使う必要があったのかどうか。
                                『闘うカノン』は、作者の想いが微かでも伝わってきたし、SF的要素もあって好きだった。でも、あまりに詰めが甘い。もっと緻密にもっと丁寧に作品を創って欲しい。書き手は自分の作品、言葉に重い責任と覚悟を負う。どうか、そこから出発してください。

石崎洋司先生
                    『もっとのめりこんでください!』
   本賞も四回目ともなると、最終選考に残る作品はどれも読みやすく書かれていました。
                       特に「ごしなん!」は、和算ネタということもあって、興味深く読みました。でも、がっかりです。ぜんぜん「和算」らしくない。「鶴亀算」も「旅人算」も小学生が塾で教わるあたりまえの解き方です。これでは、算数嫌いの子どもはもちろん、算数大好きの子どもも、まったく魅力を感じないでしょう。
                          「闘うカノン」も同じです。主要キャラは、クラシック演奏のエリート中学生たち。それなら、ピアノやバイオリンを「おけいこ」レベルで習っている子どもたちの「知らない世界」を見せましょう。子ども読者はストーリーだけを追っているわけではありません。驚きと興奮に満ちた「世界」を楽しんでいるからこそ、ストーリー「も」追うんです。
                             結局「和算」も「クラシック」も「ただのネタ」なのですね。物語を書きたいのなら、ネタに精通し、のめりこみましょう。調べまくり、取材を重ね、豊富な知識を得、その上でどこを抽出すれば魅力的な物語になるか、どのくらいかみくだいた表現を使えば子ども読者に伝わるかを考える。だから大人向けに書くよりむずかしい。「相手は子ども。これぐらいで十分」は、児童書の世界で失敗する典型なんですよ。池上彰さんが「週刊こどもニュース」でブレイクしたことの意味をよく考えてください。
                                もうひとつ。物語には書かなくても「キャラ」には「過去」があります。「人生」があります。物語中の行動や言動もそこから自然に生まれます。よく作家が「キャラが勝手に動く」というのは、そういう意味です。でも、「変身なんかしたくない!」の作者は各シーンの「いま」だけを見て、キャラを人形のように操っています。キャラは「人間」です。呼吸をしてるし、体臭もするし、トラウマも抱えている。ケガをすれば血がでます。そこに心を配ってくださいね。

中村 航先生
                    『主人公を好きになりたい!』
   何としても大賞作品をだしたい! と思っているのだけれど、どうしても作品がそのレベルに達しておらず、優秀賞が二作品という結果になった。ここをこうすれば、そして、ここはこうすれば、さらに、ここをこうすれば、ここさえこうであれば、といったような議論が白熱した選考会になった。
                       三作品に共通して物足りなかったのは、主人公の切実さ、だったように思う。主人公にいろいろなことが起こる。そのことに対して悩む、あるいは喜ぶ、あるいは感じる、あるいは行動を起こす、といったことに読者は共感したいのだが、三人の主人公には、どこか他人事だなあ、という印象を受けた。主人公が単なる物語のための駒になってしまっているのかもしれない。
                          主人公のことを好きになったら、小・中学生はその小説を夢中で読むと思う。最終選考に残った三人は、それぞれ意欲的な書き手だ。ぜひ魅力ある主人公を創りあげてください。期待しています。以下は、主人公以外のことについて述べます。
                          「闘うカノン」
                             音楽の描写が美しくてロマンチックで、とても良かった。音楽エリートたちの拘りがキャラクターに繋がっているのもよかった。ただMガンなどのアイテムに全く説得力がないのは大きな弱点だと思う。
                             「変身なんかしたくない!」
                                物語とは関係ないところでセンスが光っていて、特に男子の描き方が最高だった。でも小説としての完成度が低いと選考会では不利! 才能あると思うし、今後も書くべき人だと思うので、ぜひ書き続けてください。
                                「ごしなん!」
                                   題材の良さを引き出す工夫をすると、もっとよくなると思う。鶴亀算の解き方を普通に解説したのでは参考書と同じで、鶴亀算で何か現実の問題を解決するとか、鶴亀算vs連立方程式を見せるとかいった工夫が必要ではないでしょうか。

深沢美潮先生
                    『もっと心にガツンとくる物語を!』
   今年のみらい文庫大賞の最終選考作品を読んでの感想は、三作とも「とても読みやすい」というものでした。他の先生も仰っておられましたが、「良くも悪くも読みやすかった」という感想に、わたしも大いに納得しました。つまり、するっと読めるけどもうひとつ残らないんですね。毎年同じことを言ってるようですが、登場人物たちが生きていないんです。この子の両親はどんな人なんだろう? どんな家に住んでいて、何が好きなんだろうか。嫌いな教科は? 友達はどんな子なんだろう? などがちっとも見えてこないんですね。それは主人公に限りません。脇役が生きていれば必然的に主人公も生きてくるはず。
                       中では「闘うカノン」が一番印象に残っています。設定などは突っ込みどころが満載なのですが、途中からグイグイと引き込まれていきました。モブシーンなど、難しい部分にも挑戦されているのも好感が持てましたし、その筆力もあることがわかりました。今後に期待しています!
                          「ごしなん!」ですが、算数が苦手なはずなのに案外さらっと問題を理解してしまう部分がもったいなかったですね。後は最後の盛り上がりに欠け、あっけなかったです。主人公の容姿などを書いていただけると、もっとよかったかなと思いました。
                             「変身なんかしたくない!」ですが、最後まで世界設定がわかりませんでした。ただし、この作家さんはきっと「こうすれば子供たちが喜ぶだろう」という意図で書かれていることはよくわかりました。既存の変身ものの焼き直し感があったので、新鮮味は感じられませんでした。
                                全体的に言えることですが、ジュニア小説の傾向と対策なんて考えず、もっと真っ向から物語に向き合ってほしいなぁと思いました。来年に期待しております!
ご応募いただきました皆様、ありがとうございました。 今回は大賞該当作はなく、二作品が優秀賞受賞となりました。毎回、最終選考に残ったすべての方に担当編集者がつき、「集英社みらい文庫」からのデビューを目指していただいています。今後も、小・中学生読者に喜んでもらえるような、パワーあふれる作品をお待ちしております!
              ※選考についてのお問い合わせには一切お答えできませんので、なにとぞご了承ください。
※第5回の募集詳細につきましては、ホームページで告知させていただきます。
★第三次選考を通過されましたのは、以下の3作品です。
※敬称略、順不同
| タイトル | 氏名(ペンネーム) | 
|---|---|
| ごしなん! | 藍沢 羽衣 | 
| 変身なんかしたくない! | 百舌 涼一 | 
| 闘うカノン | 中村 天音 | 
★第二次選考を通過されましたのは、以下の10作品です。
※敬称略、順不同
| タイトル | 氏名(ペンネーム) | 
|---|---|
| ひとりと、ひとり | 吉田 桃子 | 
| 小悪魔ノート | 滝井 幸代 | 
| せんべい屋のむすこ、空を飛ぶ | 森 由紀 | 
| ごしなん! | 藍沢 羽衣 | 
| 変身なんかしたくない! | 百舌 涼一 | 
| 闘うカノン | 中村 天音 | 
| きりかとギルの魔術回収!? | さと ようこ | 
| 森園中学おひるね部! | 広野 みさ | 
| ケセラン・パサランにお願い! | 夜野 せせり | 
| 偽除霊師、始めました。 | 長谷川 楓 | 
★第一次選考を通過されましたのは、以下の37作品です。
※敬称略、順不同
| タイトル | 氏名(ペンネーム) | 
|---|---|
| ほら、大きくなったらさっ! | やぐちひろかず | 
| クマ、ツル、リン! | 春間 美幸 | 
| 戦慄のお笑い教室 | ひろみ透夏 | 
| リンケージ~絆~ | 高田 在子 | 
| 宵待荘で待ってるよ | 真風 月花 | 
| サンタさんから問題です | てり | 
| 穴ほりゴンタの夏の夜の秘密 | 飯島 勇 | 
| 「ボク、タマ。」 | 南葵農園 | 
| おやじマーメイド | 中村 ルミ子 | 
| PLANET-A | ichiken | 
| とげまる | 伊藤 英彦 | 
| 天狗の小太郎 | 重松 弦太郎 | 
| 夢探偵Yジロー | 南野 海 | 
| メロディ 魔法学園物語 | 野原 はるか | 
| 野球部は人気者 | 嘉瀬 陽介 | 
| ぼくの幽霊ママ | 橋村 明可梨 | 
| 王子様も悪くない! | 夜野 せせり | 
| あなたの願いかなえます | 広都 悠里 | 
| トイレの(すきまの)ハナコさん!? | 一ノ瀬 三葉 | 
| 真夜中の木琴 | 池田 理香 | 
| ギフト | 明孝 木立 | 
| ひととまのファミリア | 麻倉 はるか | 
| 空飛ぶ花火とモチの風船 | 宮川チャック | 
| うちはレーガン大統領家 | 幕田 麻里 | 
| 音羽と共に | 井澄 せな | 
| 龍神山にサクラ舞う | 小林 功治 | 
| 私がアイドルになれない理由。 | 野々村 花 | 
| JUMP!ぼくらはこうして進化する | 長瀬 由季 | 
| ㈱新撰組 | 河端 朝日 | 
| 金糸雀は鳴かない | 十見坂 星樹 | 
| きゅうじゅうろく | 石神 ケン |