集英社みらい文庫1章だけ大賞

冒頭だけで「あ、この話読んでみたい!」と思えるような“作品の最初の最初”を募集しています。イメージは、「ここから物語が始まる!というところ”まで”」。キャラクターだけ、設定だけ、出会いだけ、アイデアだけ…どんなものでも、あなたの「こういうの描きたい!」がギュっと詰まったものを届けてください。
大人向けの小説で刊行歴のある作家さん。他社の児童向けで刊行歴のある作家さん。フィクションは書いたことがないけれど、ピンとくるテーマがあった方。デビューしたけど、2作目以降が刊行できていない作家さん…どなたでも、ご応募お待ちしています。

結果発表

3回めとなる1章だけ大賞、今回は前回を大きく超える約400本ものご応募をいただきました。
毎年行われている「みらい文庫大賞」とはまた一味ちがった切り口やアイデアも多く、
編集部一同新鮮な気持ちで拝読しました。

今回、全体で大賞を3本出させていただきました。ぜひ担当と一緒に、作品完成を目指して頑張っていただければと思います。
そして、大賞にはあと一歩届かないながらも、きらりと光るものを感じられる投稿作がいくつもあったため、今回特別に『期待賞』を設け、賞金1万円をお贈りさせていただくこととなりました。
また、最終選考に残った投稿作についても、選評つきで発表させていただきます。

いよいよ12月1日からは、第14回みらい文庫大賞の応募受付が開始になります。
賞には及ばなかった投稿作についても、1章だけでは伝えきれない魅力がきっとあるはずです。
ぜひ最後まで形にして、みらい文庫大賞へご応募いただければ幸いです。

  • 思わず夢中!ファンタジー部門
  • 100万回泣ける!「エモ恋」部門
  • 癒される。考えさせられる。アニマル部門
  • ハラハラ度MAX!!スリル部門
  • わたし、これなら詳しいです!部門
思わず夢中!ファンタジー部門
総評

ご応募くださったみなさま、ありがとうございました。応募数が最多となったファンタジー部門ですが、一つ一つ楽しみながら読ませていただきました。

「おおっ」と思わせるファンタジー設定がありつつも、その説明に終始せず、魅力あるキャラクターが登場し、事件がテンポよく起こる作品を選びました。私は子供のころ読書が好きでしたが、飽き性でもありました。冒頭の数ページは「飽き性の子どもがページをめくってくれるか」を気にしながら読みました。

世界を作りこむことは大切だと思いますが、今の小中学生読者が好きになる登場人物、ワクワクするエピソードを意識してほしいなと思います。

今回驚いたのは、10代の方々の力作が多かったことです。中学受験やインターネットなどのトピックと、ファンタジー設定をかけ合わせるというような、楽しく読ませる工夫がみられました。「今後もがんばってほしい…!」と激励の気持ちでいっぱいです。

大賞
『後宮衣装係~姫さま、本日のお衣装です!~』
橘花やよい

冒頭で中華後宮の世界と、主人公・芽衣のキャラクターを軽やかに提示し、そのあと印象的なイベントがポンポンと続き、読む手が止まらなかった。「女の子をおしゃれにプロデュース」というテーマが軸であるため、後宮になじみのない小中学生も興味をもって読んでくれそうである。キャラの描写をもっと粒立ててほしく、特に主人公は、「後宮でもへこたれず頑張る理由」を掘り下げてほしかった。

期待賞
『あやかし奉行所入国管理局』
タイダ メル

「長崎の出島」×「妖怪」の舞台設定にオリジナリティがあり、印象に残った。江戸時代の洋風・和風が入り混じる雰囲気と、妖怪事件がうまくかみ合えば魅力ある物語になる可能性がある。キャラクターは、ゲームや漫画も好きな小中学生読者を想定して、サービス精神を持ってキャッチーに作りこんでほしい。展開が少し子供っぽく感じたので、事件や解決方法はもっとスリリングなほうがよいと感じた。

最終候補作 選評
著者五十音順
『劇団おとぎ座 ~ハッピーエンドを全てのきみに!~』 葉月灯里

主人公めい子の性格がわかり、ちょっとした裏切りもある冒頭3ページがよかった。有名なキャラ・人物が周囲の人に憑依し、お祓いするという設定には類似作品があり、また、小中学生が童話のキャラをすすんで好むかはやや疑問が残る。推しの男の子が転校してきて、一緒に協力していく様子の書きぶりにコミカルさとドキドキがあって面白かった。

『魔法道具の預かり銀行』 六畳のえる

文章は平易で読みやすく、西洋風の魔女のいる異世界の雰囲気がわかりやすかった。小学生のセリフ回しにあまり今っぽい印象はなかったように感じる。魔法道具の質屋は、刺激的なトラブルを作ることができる設定だと思うので、主人公たちが年齢の近いキャラとかかわり、ドキドキハラハラする場面がほしいと思った。

『まんぷく!』 わきあんず

料理好きの主人公が、異世界に迷い込み、皇子専属の料理人を目指す話。多数応募があった異世界の話の中でも、「料理」という小中学生にも身近なとっかかりがあり、皇子との恋愛も期待できそうだった。ただ構成が粗削りで、せっかくなら冒頭には料理の場面を持ってきた方がいいし、異世界に迷いこむきっかけなど、縮めてもいいシーンがあったように思った。

100万回泣ける!「エモ恋」部門
総評

「恋」というのは、限られた一部の人だけが経験するものではなく、日常で多くの人が経験するものです。だからこそ、作品に落とし込む際には、いかにキャッチーに見せるかがとても重要です。キャッチーというのは、「印象に残る」「人の心をとらえる」という意味です。この部門では「エモさ」にそれを求めているわけなのですが、その「エモさ」を分解していったときに、恋の持つ“切なさ”をしっかり引き出せていると感じられた作品を大賞に選ばせていただきました。また、大賞には惜しくも届かなかったけれども、光るものがあったと思った作品は、期待賞とさせていただきました。

大賞
『キューピッドは恋をしない』
結季ななせ

瑞々しく読みやすい文体にとても好感が持てました。冒頭の始まり方も印象的ですし、会話が軽やかでムリがなく、心地よく読めました。また、読者が共感できる、応援したくなるような主人公が自然と描けていたと思います。主人公がいわゆる「当て馬キャラ」というのは、ありがちなパターンではあるので、そこをどうユニークに見せていくかが課題かなと思います。もう少し設定に工夫を凝らして振り切っていけたら、読み応えのある作品になりそうです。

期待賞
『いつか僕の世界に夜空が落ちても』
pico

出会うべくして出会ったという二人の運命感を上手に描いているなと思いました。ただ、主人公の女の子の作りこみが薄くキャラクターが弱いため、男の子キャラに負けてしまって、どちらが主人公なのか(読み手はどちらの目線で読めばいいのか)が途中であやふやになってしまうかなという印象を受けました。キャラクターをしっかりと作ることが今後の課題と言えそうです。

最終候補作 選評
著者五十音順
『キミの幸せを願うから~龍神さまとあの日の約束~』 くらげ

作中での言葉選び、比喩表現、登場人物の名前の付け方など、すべてにおいて「今っぽさ」を感じるセンスの良さがありました。後半に人外のキャラが登場しますが、そこで急に古風な設定に飛ぶのがやや唐突に感じられたので、もっと今の小中学生になじみのあるものと組み合わせられるといいなと思いました。

『初恋リミット』 永良サチ

主人公の女の子と相手役の男の子がお互いに「初めての恋をする」、つまり恋愛感情をイチから一緒に経験していくという、恋愛作品としては王道の設定に真正面から取り込んだ意欲作でした。アンドロイドというモチーフに挑戦した気概にも拍手を送りたいですが、アンドロイドの描き方が定型的で、新鮮味が感じられなかったのが、ややもったいなかったです。

『青と白のラストページ』 夏目知佳

掴みのよさ、文章のテンポのよさが際立つ作品でした。ただ、大半が会話で進行するため、誰の発言なのかが曖昧になってしまったり、読み手側が置いてきぼりになってしまう瞬間がありました。また、アンドロイドというモチーフを扱っていますが、男の子がアンドロイドである必然性があまり感じられなかったので、納得のいく理由付けが欲しいところです。

癒される。考えさせられる。アニマル部門
総評

「動物」をただ可愛い存在、愛でる存在としてサブ的に描くのではなく、ストーリーの核として描ける作品を期待していましたが、なかなかハードルが高かったのかなという印象を受けました。大賞の該当作はありませんが、エンタメ作品に昇華させようという気概が感じられた5作品に講評をお送りします。

最終候補作 選評
著者五十音順
『開館、ゼツメツミュージアム!!』 あぐりぶんか

児童文庫をよく研究されているなと感心する作品でした。始まり方も面白くて引き込まれますし、キャラクターも好感度が高かったです。「絶滅種を扱う博物館」という着目点はユニークなのですが、絶滅種がこの世に現れる理由や、現れた後になにか成し遂げたいことがあるのか、というところまで書けると、もっと物語に厚みが出ると思いました。

『恋猫レインは人間になりたい』 浦安えみ

人間になりたい猫目線の物語という点に新鮮さがありました。リズム感のある読みやすい文章で、アイデアはおもしろいと思いましたが、猫の一人称で、文体が柔らかいことから児童文庫よりも幼い層に合う作品だと感じました。最後まで猫が猫のままでストーリーが進まない方が、エンタメ的な要素が強くなったと思います。

『ようこそ!不思議なアニマルカフェへ』 風川なるみ

小学生にとって身近な設定ですし、平易な文章で書かれており、物語に入っていきやすかったです。書いていただいた内容においては「動物病院」としての見え方が大きく、「アニマルカフェ」の良さが伝わってこなかったので、舞台をどちらかに絞り、その舞台ならではの出来事が起こっていくようにすると、もっと読みやすくなりそうです。

『わたしの精霊は白いオオカミ』 涼原碧乃

アニマル部門は、ファンタジー色の強い作品が多めでしたが、その中でも書きたいテーマが見える作品でした。構成力と文章力があり、冒頭から惹き込まれましたが、聖霊のオオカミのキャラクターが児童文庫の読者に対しては大人っぽく、親和性が薄い感じがありました。もう少し市場の研究をされるとよりよくなると思います。

『桔梗くんは、なんでもできる!~ワン☆ダフルな部活、始まる!~』 星山ぴこ

主人公がお嬢様という設定や「人助けをしたい」という動機などがきちんと説明されており、歯車があっていて、人助けをする部活=ワンダフル部を作る、という流れは楽しく読めました。ただ、それと「動物」を絡めることに不自然さを感じたため、もっとなじむように調整が必要だと思いました。

ハラハラ度MAX!!スリル部門
総評

多数のご応募、ありがとうございました。
「ハラハラ度MAX!!」と感じた作品は、正直なところ少なかったです。
作者が何にスリルを見出すのか、読者が何にハラハラするのか想像する……キャラクター設定や全体の構成力が非常に大事になります。

面白い作品を描くプロ作家に対して「ドSだな…」と感じることがしばしばありますが、それはどんなキャラクターが、どのような境遇に陥ると最も効果的か理解しているからだと思います。要するにイジワルにならなくてはなりません。

ぜひ、ご自身の見出す「スリル」が、どうしたら最大限「読者に面白いと思ってもらえる」のか、意識してみて作品を作ってみてください。

大賞
『マリアちゃんと鬼ごっこ』
永良サチ

他の投稿作品に比べ短いページ数ながら、殺人鬼マリアの怖さがばっちりと打ちだせており、大変面白かったです。児童文庫お約束の「ルール」表記も読者に飽きさせず読ませる工夫もあり、部門にふさわしくハラハラしながら読むことができました。「今後のストーリー展開」についてはマリアサイドが家族の問題を持ち出す展開となりますが、敵が裏事情を語ると恐怖が薄まるので、とことん不条理な展開を意識したほうが最後まで緊張感を持って読めるように感じました。

期待賞
『超高層タワーマンションから脱出せよ!』
雨宮みちる

女の子のサバイバルゲーム作品は珍しく、楽しく読めました。文章がポップでキラキラしていて、今にもラブストーリーが始まりそうなのですが、その期待を裏切って気がつくとじわじわと100階のタワーマンションから逃げ出さなくてはならなくなっているという展開のギャップが、ユニークで良かったです。後半、そのギャップの面白さを残しつつ、スリルのある怖さを描けると他にはない作品となりそうです。

期待賞
『大人VS子供!? 友情サバイバルゲーム』
シューティングスター

今回の選考では、年齢の若い投稿者が書いた作品が多く見受けられました。その中でもひときわ構成力が高かったのが今作です。登場人物も冒頭から多く出てきますが、それぞれの書き分けがうまく、個性豊かな面々がどんな困難に巻き込まれていくのかと、ハラハラさせられました。キャラクター像が深まると比例してスリルも増すという、良い作例だと感じました。今後もがんばってください!

最終候補作 選評
著者五十音順
『コロシアイランド〜殺人犯13人集めてみた〜』 アオイカオル

文章は荒削りな面も見られつつも、スリルのある展開で面白く読み進められました。閉鎖的環境下でのサバイバルものは王道ですが、大人がいる圧倒的に不利な中で生き残る、というのはなかなか新鮮でした。児童文庫のサバイバルものでは、「子どもは死なずに、ギリギリの場面を機転で切り抜ける」というものがほとんどです。みらい文庫においては文章表現の対象年齢を下げつつも、緊張感を保った表現ができるかという点が課題かと思われます。

『怖い体験、ありますか? 〜高価買い取りいたします〜』 井之上みこと

「スリル」部門に2作品応募いただきました。どちらも文章力があり、完成度が高かったですが、もう1作と共通して少々型にはまった印象を受けました。限られた児童文庫の行数のなかで、「限界MAXに怖い!」を意識してみるとさらに良くなると感じました。ぜひ、他の児童文庫作品がどんな工夫をしているか研究してみてください。

『謎解き学園』 佐織えり

1ページ目から読者を惹きつける工夫が見られて面白かったです。構成力も文章力も十分ですのでするすると読み進められるのですが、どちらかというとハラハラ感よりもワクワク感が強く、気を抜くと文章の雰囲気が落ち着いてしまうのが気になりました。また、主人公のモチベーションが本人にはどうしようもない経済的困窮だったので、スリルを追求した別の目標を立ててあげたほうが、気持ちよく読めるように感じました。

『かいとう教室にようこそ』 ながのたかひろ

「スリル」部門に2作品応募いただきました。どちらも対象読者が好むようなリズム感のある文章で、非常に読みやすかったです。第1章の重要性を理解し、読者の心を掴みにいっているところは好ましいですし、続きが読みたいと思わせる力がありました。「今後のストーリー展開」については、ゲーム性やスリル感というより、会話劇に終始しそうなところが気になります。

わたし、これなら詳しいです!部門
総評

この部門では、今回は残念ながら大賞・期待賞に該当する作品は出ませんでした。投稿作はどれもその分野への知識や情熱を持っていることをしっかり感じさせるものだったと思います。ただ。「詳しいこと、自分の好きなこと」を、どういう形に落とし込めば読者にわかりやすく伝えることができるか、冒頭から心をつかめるか、という視点がほしかったとも感じました。そのために必要なのは、①具体体な読者を意識すること、そして②「自分の好きなものの魅力」を客観的にとらえること、だと思います。特にみらい文庫は児童文庫ですので、小中学生が主な読者層になります。“読者一般”ではなく、“今の小中学生”にどう届ければ面白がってくれるか、という切り口も必要になってきます。この2点をしっかり掘り下げることができれば、皆さんの情熱を一冊の本として形にすることがきっとできるはずだと思います。

総評にもあります通り、12月1日から第14回みらい文庫大賞の応募受付が始まります。今回投稿していただいたものについても、ぜひ上記の点参考にしていただき、みらい文庫大賞へのご投稿を検討していただけますと幸いです。

最終候補作 選評
著者五十音順
『佐伯くんのちょっとエレキな事件簿』 桜花香里

短い作品でしたが、“ロボット部の部員が事件を解決していく”という、児童文庫読者が興味を示しそうなキーワードに注目しました。いいところで1章が終わるので、続きが読みたくなりました。ただ、大人ウケする表現が多く、難しい言葉が使われているので、小中学生を意識して文章を書いていただくとよいと思います。

『144−意射入魂』 アオイカオル

部活でアーチェリーをする高校生の青春もので、児童文庫よりも年齢層が高い読者に向けた作品でした。主人公の生き生きとした様子が伝わる文章に好感を持ちましたが、さらに「アーチェリーの魅力を小・中学生に伝えるためには?」ということを考えて、読者に合ったストーリーを検討されるといいと思いました。

『ひまり☀︎センセイ日記っ!』 夏目薙朔

中学生の男女6人が保育士を目指す物語。児童文庫を研究している、テンポのある読みやすい作品でした。寮での共同生活、6人がうまくいかないことでの起こるケンカ、健気な主人公が成長していく設定に、やや新鮮味を欠く印象があります。1章のうちに驚くような出来事が起こるなど、何か仕掛けがあるといいなと思いました。

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