『姫さま、本日のお衣装です!』そのごのおはなし♪ 第13章 最終話

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姫さま_そのごのおはなし_あらすじ

 

第13章

 

 

儀式が終わると、紅花さまは侍女たちにむかえられて、花殿に帰っていった。

 

 侍女のみんなが「紅花さま、すてきでした!」って泣いて、わいわいにぎやかに帰っていったから、なんだかほほえましいよ。

 まあ、紅花さまを裏切ったお姫さまについては「絶対つかまえて反省させます!」って全員怒りが燃えあがっていたけど……。

 花殿の侍女たち、怖い。

だけどあのお姫さまには、しっかり反省してもらわないと!

 あと帰り際、侍女たちが「あなたもよくやったわ!」ってほめてくれて、うれしかったんだ!

 わたしだけいっしょに花殿に行けないのが、ちょっとさびしいくらい。

(まあ、わたしは花殿の侍女じゃないからね……)

 

「芽衣、お待たせ」

「あ、藍雪さま!」

 

 普段の衣装に着替えた藍雪さまがやってきた。

儀式用の衣装だと移動が大変だから、天陽宮へ帰る前に着替えてきたんだ。

 これから、ふたりで天陽宮に帰る。ああ、なんか久しぶりだな、この感じ。

 花殿も嫌いじゃないけど、やっぱり藍雪さまのいる天陽宮が好き!

 

「帰りましょうか、藍雪さま!」

「あ、すこし待って。実は白竜さまが送ってくださるみたいで」

「そうなんですか? ふふ、愛されてますね~!」

「芽衣、からかわないの……!」

 

 藍雪さまはほほを赤く染めて抗議してくるけど、そんな顔もかわいいだけだ。

 それからすこしして、白竜さまも合流した。でも、あれ?

 

「雷斗さまはいっしょじゃないんですか?」

「ああ、すこし貴族たちにつかまったみたいで。あとで追いかけると言っていたけど……、芽衣、よかったら様子を見に行ってくれるかな?」

「はい。もちろん!」

 

 貴族たちってなると、あんまりいい話じゃなさそうだもんね……。

 わたしはふたりにおじぎしてから、会場までの道を走った。

 雷斗さまを見つけたのは、すこしはなれたところにある小道だ。

 

「まさか、側室をむかえないなんて。考えなおすよう、王にお伝えください!」

「そうですよ! あんまりだ! うちの娘も側室を目指していたのに!」

 貴族の男たち五人が、雷斗さまにすがっていた。うわあ、やっぱり……。

「白竜さまはまだお若いから、考えが甘いのだ!」

「いっそ、雷斗さま、あなたが権力をにぎってみては? 我らが後押ししますから! 第二王子であれば、それも夢ではないでしょう!」

 

 ちょ、ちょっとちょっと! さすがにそれは言いすぎじゃない?

 白竜さまに失礼、というか、反逆罪とかにされかねないよ?

 

(雷斗さま、大丈夫かな)

 

 貴族たちはしつこそうだし、やさしい雷斗さまは無視できなさそう。

 ここはわたしが、雷斗さまを連れさるべきかも……⁉ わたし、白竜さまを見習って、おとぎ話の王子みたいに雷斗さまを救おうか⁉

 

 ――なんて思ったときだった。

 

「いまの言葉は、聞き捨てなりませんよ」

 

 雷斗さまの声がした。いつもやさしい雷斗さまの、冷えきった声が。

 

(こ、これって……)

 

 雷斗さまの普段とはちがう雰囲気に、貴族たちの肩がびくっとふるえる。

 

「ら、雷斗さま、どうされました。そのような怖い顔を……」

「あなたがたが、無礼なことを言うからです」

 

 あくまで静かに言う雷斗さまに、貴族は「ひぃっ」と小さく悲鳴を上げる。

 雷斗さまは声と同じ、冷たい瞳で貴族たちをにらんだ。

 

「王を侮辱するのであれば、いますぐあなたたちを牢に入れなければなりません。それが俺の仕事なので。それくらいは、わかりますよね?」

「は、はい……っ!」

「一度だけなら見逃します。これ以降、同じ発言をするなら容赦はしません」

 

 氷みたいに冷たい声で言う雷斗さまに、貴族たちは真っ青になっている。

そんな貴族の顔を順々に見て、雷斗さまがつづけた。

 

「俺が王を裏切るなんて、ありえない。さきほどの言葉は俺のことも侮辱しているようなものです。今後、発言にはご注意を」

 

 さあっと冷たい風が吹きぬける。

 これは……、見ているだけのわたしも、冷や汗ものだよ。

 至近距離でにらまれたら、すぐ逃げだしたくなるくらい!

「ご理解いただけたなら、お引きとりください」

 最後にそう言われた貴族たちは、「失礼します!」ってあわてて走っていった。

すごい速さだ……。というか、どうしよう、声かけづらい。

 ひとり残った雷斗さまは、いつもとは別人みたいだった。いやたぶん、話しかけても大丈夫なはずなんだけど……、え、大丈夫だよね、これ⁉

 

「芽衣、なにやってるんだ?」

「うわああああっ! 雷斗さま⁉」

「そんなに驚かなくても」

 

 いつのまにか、雷斗さまがすぐそこに立っていた。びっくりした!

 あきれたように笑っているのは、わたしがよく知っている雷斗さまだった。

 さっきまでの冷たさは、どこにもない。

 

「あ~、雷斗さまだぁ……! よかった!」

「なんだよ、その反応」

「だってさっきの雷斗さま、怖かったから。貴族のおびえっぷり、すごかったですよ!」

「ああ、芽衣のおかげだな。うまくいった」

 

 にっと笑う雷斗さまは、自分のそでを指さした。

そこにあるのは、わたしが刺しゅうした氷の結晶だ。

……ってことは、やっぱり演技だったんだね。

 前に「しつこい貴族には、つんつん対応してみたら?」ってわたしが言ってみたことを、実行したみたい。

「いや、提案したわたしが言うのもなんですが、めちゃくちゃ怖いですね」

「そうか? やろうと思ったら、もっと怖くできたけど」

「だ、だめです! 貴族たちが泣いちゃう!」

 おかしそうに笑っている雷斗さまに、なんだか安心する。

 つんつんもいいけど、普段の雷斗さまが一番だよ。

 

「まあ、なにはともあれ、お役に立てたならなによりです。これで雷斗さまの問題も解決ですね! みんなすっきりできて、今日はいい日です!」

「そうだな。兄上や藍雪どの、紅花どのも、いい顔をしていた。芽衣もな」

 雷斗さまは、ぽんっとわたしの頭をなでる。

「お疲れさま。いい舞だった。衣装もよかったよ」

「……ありがとうございます~っ!」

 わあ、どうしよう。めちゃくちゃうれしい! いいのかな、こんなに幸せで。

ふふ、でもがんばったんだから、幸せいっぱいになったっていいよね!

 

「よし、帰りましょう、雷斗さま!」

「あ、こら、そんなに急いだら転ぶぞ」

「転びません! でも転んだって、いまなら空中で一回転して着地できそうです! 任せてください!」

 くすくすっと笑ってくれる雷斗さまにつられて、わたしも笑えてくる。

 ああ、いい気分!

 ふたりで藍雪さまたちのもとに走りながら、楽しくてうれしくて、笑いが止まらないよ。

 

「あ、藍雪さま、白竜さまー! 雷斗さまを連れてきましたよー!」

 わたしに気づいた藍雪さまたちが、手をふってくれる。

 わたしは藍雪さまに走りよった。

 

「藍雪さま、わたし、はやく衣装をつくりたいです! 婚礼の衣装、また一からつくりますね! 過去最高、だれもがうらやむ衣装を!」

 ぐっとこぶしをにぎれば、藍雪さまは花が咲くような笑みを浮かべた。

「期待しているわ。きっとすてきな衣装になるわね」

「もちろんです!」

「ふふ、芽衣らしい。なんだか、そんな芽衣を見ていると、わたしも衣装をつくりたくなるわ」

「え、藍雪さまも?」

「だって、楽しそうなんだもの。……あ、そうだわ!」

 ぱちん、と手を鳴らした藍雪さま。

「芽衣の婚礼衣装は、わたしに用意させて! わたしひとりでは難しいけれど、侍女たちにも手伝ってもらって完成させるわ。ねえ、どうかしら?」

 

 藍雪さまのつくる衣装……⁉ しかもわたしのために⁉

 見たい、着たい! そんなの楽しみすぎるよ!

 

「ありがとうございます。ぜひ、お願いします!」

「ええ。芽衣のつくる衣装に負けないくらいのものを用意するわね!」

「えええっ、うれしすぎる……! でも、わたしのつくる衣装をそう簡単にこえられると思わないでください! わたしも張り切ってつくりますからね! 藍雪さまの衣装はこの世で最もかわいくなきゃいけませんから!」

「――あー、あのさ、盛りあがっているところ悪いんだけど」

 

 雷斗さまが苦笑しながら、ひかえめに声をかけてきた。

 なになに? いますっごくいいところなのに!

 

「婚礼の衣装は、芽衣にはまだ早いんじゃないか?」

 

 ――はっ! たしかに……?

「どうしよう。わたし、結婚相手いません! もらってもむだにしちゃう!」

「あら、芽衣だって着るときがくるわよ。芽衣はかわいいもの、すぐ恋人もできるでしょうし」

 藍雪さまはくすくす笑って、わたしと雷斗さまを見ている。

 結婚相手とか恋人とか……、いつかわたしも?

 ぼんっと顔が熱くなるのがわかった。なんか、はずかしい!

 

「そ、そういうの、想像できないです!」

「ああ、芽衣には結婚も恋人もまだ早い!」

 勢いよく言ったわたしと雷斗さま。……って。待って。

「ちょっと雷斗さま、わたしが子どもっぽいってばかにしてますか⁉」

「え! いや、そういうわけじゃないが……!」

「じゃあ、どういうわけですか!」

「いや、えっと……、いろいろ、かなあ」

 

 雷斗さまはちょっと赤くなって、目をそらす。

(……ん?)

 な、なんで、そんな顔するの。

こっちまで、そわそわしちゃうんだけど……⁉ どういう表情なの、それ⁉

 

「とにかく、そういう話はまだいいだろ」

「わっ」

 

 ぼすんっとわたしの頭に手が置かれた。

 そのまま、わしゃわしゃなでられて、顔が上げられない。

 

「ちょっと、やめてくださいよ! 髪型崩れる!」

 そこに、ふっと白竜さまの笑い声がした。

「雷斗のそういう顔はめずらしいね。ぼくの弟はかわいいなあ」

「はあ⁉ 兄上、なに言って……!」

「あとで話を聞かせてもらおうか。兄として、弟のことは見守りたいからね。でもまずは藍雪を送らないと」

 にこりと藍雪さまの手をとって、歩きだす白竜さま。

「わたしも主人として、芽衣を見守るわ。なんでも言ってね!」

 ほがらかに笑いながらついていく、藍雪さま。

「あ、兄上!」

「藍雪さま、待って~!」

 

 わたわたしながら追いかける、わたしと雷斗さま。

 雷斗さまと目が合うと、ちょっとはずかしくて、おたがいぷいっと目をそらしちゃった。

こんなの、どきどきして困るよ。でも――、楽しい!

 

(明日もいいことありそう!)

 

 さあ、帰って明日も衣装づくりだ!

 

 

 早朝、わたしはさっそく衣装部屋に向かって。道具を広げた。

「よーし! やるぞっ!」

「芽衣、おはよう」

「って、あれ、藍雪さま⁉ おはようございます、早いですね」

 ふりかえると、ねまき姿の藍雪さまがいた。にっこりとほほ笑んでくれる。

「昨日の熱が冷めなくて。芽衣も朝から衣装づくり? それは――」

「あああ、まだ見ちゃだめです! 出来上がるまで秘密ですよ!」

 急いで背中に隠すと、藍雪さまはしゅんってうつむいた。

「ごめんなさい。そうよね、勝手に見るのはいけないわね」

 あああっ、藍雪さまがさびしそう!

「大丈夫です! ご覧ください!」

「え? でも……」

「いいんです、どうぞどうぞ! いくらでも!」

 しょんぼりなんて、させられないからね。

 藍雪さまは「ありがとう」って笑って、わたしのつくる衣装の一部を見た。

「あら。これは……、糸よね?」

「はい、真っ白な糸ですね」

 細い糸と、編み物用の針だ。

藍雪さまが首をかしげる。

「衣装づくりなのに、布を使わないの?」

「ふふ、新しいことに挑戦しようと思って。えーっと、完成してるのは、こっちにありますよ。ほら」

 棚をあさって藍雪さまにそれを見せると、藍雪さまは瞳を輝かせた。

 

「きれいね……!」

 

 でしょでしょ!

 

 よかった。気に入ってもらえたみたい!

「外国で、れーす、って言うらしいです。細い糸をよりあわせて、せんさいなすかし模様をつくるんですよ。これを、婚礼の衣装に使いたくて」

すそが長い婚礼衣装。すそにこの飾りをつけたら、かわいくなりそうでしょ?

糸から織物をつくるのは大変だけど、藍雪さまのためなら、いくらでもがんばれる!

このれーすは、ずっと前からつくっていたんだ。

さすがに『百命花の舞』には間にあわなくて、使わなかったけどね。

「まずはつやのある布で下衣をつくって、それにふわふわのすけるような衣を重ねてすそをのばします。それで、すそのはしにはこの飾りをつける。三つの素材を使うから、豪華になるはずですよ。『百命花の舞』の衣装より、もっともっとすてきな衣装にしますから!」

 

「ありがとう、芽衣。本当に、すごく楽しみだわ!」

「ご期待ください! それに、この衣装だけじゃなくて、もっともっと、藍雪さまのためにたくさん衣装をつくりますよ!」

 そうやって、藍雪さまと笑いあって、支えあって過ごしていくんだ。

 後宮も宮廷も、これから先いろいろな事件が起きるかもしれないけど、それでも藍雪さまといっしょなら大丈夫。

 心からそう思うんだ。

 とはいえ、まずは今日の支度をしないとね!

 藍雪さまににっこり笑いかける。

 

 かわいくてやさしい、最高のお姫さま。

 

 さて、そんなお姫さまのための衣装は――、うん、決めた!

 

 

「藍雪さま。こちら、本日のお衣装です! 今日もとびきりかわいくしましょうね!」

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