『姫さま、本日のお衣装です!』そのごのおはなし♪ 第3章

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姫さま_そのごのおはなし_あらすじ

 

第3章

 

 

『百命花の舞』に向けて、わたしたちはすこしずつ忙しくなってきた。

 

 今年は民も見に来るから、いろいろな調整とか打ち合わせが必要なんだって。

 

 わたしも、今日は宮廷までひとりで来てお仕事中!

 

「儀式前日、会場の準備を手伝う宮女の一覧は、藍雪さまがこちらにまとめてくださいました。ご確認をお願いします」

 執務室の椅子に座る白竜さまに、資料を渡す。

「ありがとう。たしかに受けとったよ。藍雪によろしく伝えておいてね」

「はい。それでは失礼します!」

 わたしはおじぎして、執務室を出た。藍雪さまのおつかい、無事に完了!

(でもなんか……、やっぱり白竜さま、疲れてたよね?)

 いつもより笑顔がぎこちなかった。忙しいんだろうけど、心配だよ。

 

「――『百命花の舞』の舞手が、もう決まってしまったなんて。うちの娘は舞が得意なんです。雷斗さまから、王に舞手を変えるようお伝え願えませんか!」

 

あれ、廊下の向こうにだれかいる? というか、「雷斗さま」って言った?

声が聞こえたのは、廊下の角の先だ。

 そっとのぞいてみると、何人かの男の人と雷斗さまがいるのが見えた。

 雷斗さまに会えるなんて、運がいいかも。でもお話し中かあ……。

しかも、男の人たちはこそこそしていて、変な空気だし。

 

「うちの娘も舞が大好きなので、ぜひ、王に推薦を!」

「わたしの娘も! 第二王子から、王によろしくお伝えくださいませ!」

 

 みんな、雷斗さまに必死な声で話しかけてる。

 雷斗さまは困ったようなぎこちない笑みを浮かべた。

「俺はただの家臣なので、そういうことを王に伝える権限はありませんよ」

 雷斗さまの言葉に、大人たちは「そこをなんとか!」って食いさがる。その言葉にもまた雷斗さまは苦笑しながら、やんわりと断ってるみたいで……。

(雷斗さま、大丈夫かな? 迷惑そう?)

男の人たちが去っていったのは、数分経ってからだった。

 

「芽衣。そこにいるだろ」

 

「――えっ⁉」

 び、びっくりした。気づかれてたの? 一応、角に隠れてたんだけど……。

「こんにちは、雷斗さま」

「ああ、おつかれ。今日は藍雪どののおつかいか? でも盗み見はよくないぞ」

 雷斗さまが肩をすくめて笑う。うっ、ちょっと気まずい。

「ごめんなさい……。でもいまの、なんだったんですか?」

「――困った話だよ。俺は、あれが嫌で家臣になったくらいだし」

「え?」

 雷斗さまって、第二王子だけど、いまは家臣として白竜さまにお仕えしているんだよね。

でも、うーんと……、どういうこと?

 雷斗さまがため息をついて、壁にもたれかかる。

 

「兄上に取りいるために、みんな俺を利用しようとしてるんだ。第二王子の俺は王のつぎに力があるからな」

 

「利用……?」

 

 えっと、白竜さまにお願いを聞いてもらうのが難しいかもって思った大人たちが、雷斗さまを頼ったってこと? 雷斗さまの発言力がほしくて。

「なんかそれって、ちょっとむかつきますね」

 だって、雷斗さまの立場が目当てってことだもん。

わたしだったら、そんな頼られ方は嫌だなあ。

「そうなんだ。だから俺は、第二王子の立場を捨てて、家臣になった。こういうことがつづけば、俺の存在が兄上にとって迷惑になる可能性だって出てくるだろうし」

 雷斗さまはもう一度、重いため息をつく。

「なのに、まだ俺を利用しようとする貴族たちがいるんだから、困るよ」

 えらい人だからこその苦労って感じなのかな……?

とにかく、雷斗さまは疲れているみたいだ。

 

「あの、わたしにできることはありますか? 下っ端宮女のわたしにできることはすくないかもしれないけど、雷斗さまのためならなんでもしますよ!」

 

 ぐっと、こぶしをにぎる。なんでもお任せください!

 でも雷斗さまは、目もとをやわらげた。

 

「いや、もう大丈夫。芽衣を見たら元気になったから」

 

「え?」

 

「面倒な貴族たちより、芽衣を見てるほうがいいからな。ありがとう、芽衣」

 

 雷斗さまは笑いながら、わたしの頭をぽんぽんなでる。……うんん⁉ なんか、めちゃくちゃ、はずかしいんですが⁉ いやでも、お役に立てたならなによりです⁉ いや、やっぱりはずかしい⁉

 

「しかし」

 

 ふと、雷斗さまの手が止まった。こ、今度はなに?

「『百命花の舞』で舞手を務める姫は注目されるし、うまく舞えばほうびも出る。だからみんな、舞手を狙ってるんだ。今回は紅花どのも苦労するだろう。芽衣も思うところはあるだろうが、彼女を助けてやってほしい」

 え。紅花さまを、わたしが助ける?

「っていう話を、いまから藍雪どのにも伝えに行こうと思っていたんだ。芽衣もせっかくだし、いっしょに行くか?」

「あ、はい。ちょうど帰ろうと思っていたので」

……でも紅花さまを助けるって、どういうこと?

 

 

 わたしたちが天陽宮についたころ、藍雪さまの打ち合わせも終わったみたいだった。

 

藍雪さま、ばあやさんと合流したところで、雷斗さまが話しだす。

 

「兄上から正式に藍雪どの、というより、芽衣へ依頼がある」

「芽衣への依頼ですか? それはどういった?」

 うんうん、なんだろう。宮廷で聞いた雷斗さまの言葉も気になるし。

 

「実は――、紅花どのの衣装を、芽衣につくってほしいんだ」

 

「……はい?」

 

 衣装? 紅花さまの? 紅花さまの衣装を、わたしがつくる?

 

「え……、えええっ? なんでわたしがっ⁉」

 

 わたし、藍雪さまの衣装係なんですけど――っ⁉

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