『姫さま、本日のお衣装です!』そのごのおはなし♪ 第11章

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姫さま_そのごのおはなし_あらすじ

 

第●章

 

 

会場に入ると、すうっと気持ちのいい香りがした。

 

 あちこちに飾られた百命花の香りが、この場所に満ちているんだ。

 

(いま、みんなが、わたしたちを見てるんだよね)

 舞台までの道を歩くわたしは拍手に包まれていたし、会場中から視線を浴びていた。

ちょっと緊張するかも……。でも。

 

「今日にぴったりの衣装ね、いいじゃない」

「ええ、百命花みたい! きれい~!」

よかった! ほめてもらえてる……!

 

 歩くたびにゆれるすそやそでを見下ろして、にんまり笑っちゃう。

 そうそう、いいでしょ、この衣装! 我ながら最高だと思うもん!

 今日のわたしと紅花さまの衣装は、つやのある淡い黄色の布でつくったんだ。

 せんさいなその色合いは、百命花と同じもの。でも色だけじゃないよ!

 たたずまいも、百命花を思わせる衣装になってるんだから!

 舞いやすいように短めにつくった下衣は、すらっと足もとに落ちる形にしてある。今回は宝石を使わず、白い糸で刺しゅうだけをほどこした。

 そのおかげで派手すぎない、百命花の清らかさを表現した衣装になったんだ。

 

 とはいえ、清楚なだけじゃない。つやのある生地は高級感があるし、ひとつひとつの刺しゅうをていねいにしたから、華やかさもばっちり。

清楚に、美しく、華やかに。いいとこどりをした衣装ってこと!

 

「会場の反応、悪くないわね」

 紅花さまが満足そうに笑って、肩にかかった赤い髪をはらう。

 今日の紅花さまは、髪を頭の右側でひとつに結んで垂らしていた。

 ちなみに、わたしの髪は頭の左側で、同じように結んである。

 紅花さまの髪型と左右対称。ふたりの舞手にはぴったりの髪型でしょ?

 化粧もおそろいで、ひかえめだけど華やかなものにしてあるし。

 うん、やっぱりわたしの計画は大成功だね! なんか、楽しくなってきた!

 いままでで一番きれいな舞を披露できそうかも!

 

(……って、あれ?)

 

 舞台はもうすぐそこに近づいてきていた。その手前に、琴が置かれている。

 わたしたちの舞のために用意されているものだと思うんだけど……。

 

「あの、紅花さま」

 呼びかけると、紅花さまも眉をひそめてわたしを見た。

 

「これ、おかしくないですか?」

「……いまはまず、舞台に上がるわよ」

 

 紅花さまは固い表情のまま、舞台に上がっていく。

 会場前方の席には、紅花さまが活けたあの花が飾られていた。その席に、白竜さまと藍雪さまが座っている。

 舞台上で、紅花さまは深く一礼した。

 

「人々をいやす花の舞、ささげさせていただきます」

 

 舞手のあいさつだ。これが終われば、さっそく舞がはじまるはず。

 そのはず、だったんだけど。やっぱり、おかしいよ。

 

(演奏が、はじまらない……!)

 

 わたしはふり返って、琴の置かれた場所を見た。

 そこには、弾き手もいるはずだ。なのにいま、琴の前にはだれもいない。

 琴を演奏するって言っていたお姫さまの姿が、どこにもないんだよ……!

 

「……ねえ、音楽は?」

「どうして舞がはじまらないのかしら?」

 

 ざわざわと、会場に落ち着かない空気がただよいはじめた。

 こ、この空気、まずくない? まずいよね? 絶対まずい!

 なんで、お姫さまがいないの⁉

「あ、もしかしてあのお姫さま、さらわれたとか……⁉」

 紅花さまの舞を失敗させたいって思う人たちが、後宮にはたくさんいたはず。

そのだれかが、舞のじゃまをするためにお姫さまをさらったのかも⁉

 

「――ちがうわね」

 

 となりの紅花さまが、低い声で言ってうつむいた。え?

 

「あの姫はきっと無事よ。わたしは彼女に……、裏切られたんだと思う」

 

「裏切られたって……、え、なんで」

 

「もともと彼女は、報酬が目当てでわたしに協力してくれていただけ。前払いでたっぷり報酬は払っておいたけれど……、彼女だって姫だもの。わたしをけおとしたいと思っても不思議じゃない」

 

「そ、そんな……!」

 

「報酬さえ払っておけば大丈夫だろう、なんて油断したわ。まさか持ちにげされるなんて。最悪よ」

 

 たしかに、信用できないお姫さまだなとは思っていたけど、協力するって言ったのに裏切るのは、ひどすぎない?

 全部、あのお姫さまの策だったのかな。

ぎりぎりまで油断させて、確実に紅花さまを困らせるための。

 

(ひどすぎる……!)

 

 というか、この状況、どうすればいいの⁉

「――舞台に上がったからには、音楽がなくても舞うしかないわ」

 

 ざわざわ、ざわざわ。

 

 会場の騒ぎは大きくなっていく。これ以上立ちつくしていたら、きっともっと居心地の悪い空間になるんだと思う。

 紅花さまが言うとおり、やるしかないのかな。

「さあ、早く。扇を構えなさい!」

「……はい!」

 

 わたしは橙色の扇を広げて、紅花さまのとなりで深呼吸をする。

(でも、どうしよう、心臓の音がうるさい)

(みんなの視線がからまってきて、体が重い)

(ううん、だめ、集中しなきゃ。失敗なんてできないんだから)

 紅花さまが合図を出してくれる。

 

「一、二の三……!」

舞のはじめの動きを体がなぞる。何回も練習したおかげで、慣れた動きだ。

だから大丈夫、大丈夫。大丈夫……、だよね?

 琴の代わりに、紅花さまが旋律を口ずさんでくれていた。

だけど、その声がふるえている。

 

「あら。演奏はないの?」

「なんだか変じゃない? 紅花さまって、こんなに舞が下手だったかしら?」

「もうひとりの舞手もぎこちないし。なあに、これ?」

「ねー、貴族の舞ってきれいだって聞いたんだけど、微妙だね。せっかく宮廷まで来たのにさ」

 

 ひそひそとした声のはずなのに、みんなの声が全部聞こえてくるみたいだ。

 会場の空気はそれだけ冷えていた。……どうしよう、怖い。

 となりを見てみるけど、紅花さまも苦しそうな顔で舞っている。

 これ、本当に大丈夫なのかな。

 ああ、心臓うるさい。汗が冷たい。くらくらする。

つぎのふりって、どんなだっけ?

わからないよ。つらい。きつい、怖い――!

 

「興ざめだな」

 

 視界のはしで、貴族のひとりが立ちあがるのが見えた。その男の人は肩をすくめて出入口に向かっていく。しかも、それにつづいて何人かの貴族も立ちあがっているのが見えた。

ちょ、ちょっと、待ってよ! まだ舞は終わってないのに⁉

わたしたちの舞は見る価値もないってこと⁉ そんな……。

 

「……あ」

 

 ふと、紅花さまが歌うのをやめた。こ、今度はなに⁉

 紅花さまは青白い顔で、見物席の一点を見つめている。そこにいたのは――、紅花さまの父親、大臣だ。しっかりしなさいって言いたそうな顔で、しかめっ面をしている。

 とたんに紅花さまは、くしゃっと表情を崩して固まった。

でも、待って、そこで止められたら!

 

「いっ……」

 

 わたしの手が、紅花さまのうでにぶつかった。

 その拍子に、紅花さまの手から扇が落ちる。

 

「ご、ごめんなさい、紅花さま!」

 しん、と場が静まりかえった。みんなの目が、わたしたちを見下ろしている。

わたしも紅花さまも動けない。完全に舞が止まっちゃった。

 

(だめだよ、これ。本当に、だめだ……)

 

 頭に浮かぶのは、「失敗」の二文字。

 

 ここから、どうやったって巻きかえせる気がしない。完全に大失敗だ。

 今日まで、紅花さまも侍女たちも雷斗さまも、みんな助けてくれたのに。

 杏やみんなの、大切な人を思う心を背負っていたはずなのに。

 それなのに、わたし、舞台で立ちつくすなんて。

 

(頭の中が真っ白で、ふりつけもわからない。紅花さまも固まってるし。どうにかしなきゃいけないけど……、どうすればいいの!)

 

――藍雪さま。

 つい、会場の前方にいる藍雪さまを目で探していた。これまで後宮で苦しかったときは、ずっと藍雪さまがそばにいてくれたから……。

 藍雪さまと目があった。いつもの笑顔はなくて、すこしつらそうな顔で舞台を見ていた藍雪さまは、ゆっくりとまばたきをする。

 それから、静かに立ちあがって、わたしたちの方に歩いてきた。

(これって、もしかして、助けてくれるの……⁉)

 とたんに、ふわっと心が軽くなる。

藍雪さまがいてくれるなら、わたしはなんだってできるから。

 ありがとう、藍雪さま……!

 わたしは藍雪さまにかけよろうとした。

 

 ――だけど、藍雪さまはわたしを見なかった。

 

無言でわたしの横を通りすぎていく藍雪さま。

すうっと、わたしたちの間に風が吹きぬけた。

 わたしの後ろにあるのは、出入口だけだ。それなのに藍雪さまはそっちに歩いていく。

 

え、うそ、まさか。

 

(……帰っちゃうの? ほかの貴族たちみたいに?)

『百命花の舞』を成功させたいって、藍雪さまは思っていたはずだ。

だから、わたし、今日は絶対に成功させたかった。

 それに、藍雪さまなら紅花さまを困らせたくないと思うはずだから、わたしはこの舞台に立つことにしたのに。

 藍雪さまは、そんなことを望んでいなかったのかな。

 

(やっぱり、わたし、間違えてた……?)

 

舞手を辞退した方がよかったのかな。藍雪さまが望んでいたのは、それだったのかも……。そうだよね、あんなに白竜さまが大好きなんだもんね。

わたし、藍雪さまを困らせて、儀式も失敗させちゃった?

 

(もう、だめかも)

 

ぎゅっと苦しくなって、視線が下に落ちる。

目の前がぼんやりにじんで、なにも見えなくなった。

 泣きたくないのに、どうすればいいのかわからない。わたしはただ、みんなに幸せになってほしかっただけなのに。

こんな舞台、早く降りて逃げだしたいよ……っ!

 

 

 ぽろろん。

 

 

 そのとき、突然、琴の音が響いた。やさしくて、まっすぐな音が。

 

(この音って……)

 

 はっとして、顔を上げる。たしかに聞こえた、琴の音。

 

 ――ああ、そうだ。

 

 わたしの後ろにあるのは出入口だけ? ううん、そうじゃない。

 そこには。琴があるんだよ!

 だれも弾き手がいなかった琴。いま、その前には藍雪さまがいた。

藍雪さまが、ぎゅっとなにかにたえるように目を閉じてから、息を吸いこむ。

 

 指先が弦を弾いた。音が会場にあふれていく。

やわらかな、わたしたちを包みこんでくれるような旋律がほほをなでる。

 何度も聞いた『百命花の舞』の曲だ。

 

藍雪さまが、わたしたちのために演奏してくれてる……!

 

(すごくつらくて、悩んでるはずなのに……、藍雪さま、助けてくれるんだ)

 

 背中を押すような琴の響きに、ぶわっと涙があふれた。

がんばってって、藍雪さまが伝えてくれてる。負けないでって。

 藍雪さまは、どんなときでも困っている人を見捨てることなんてできない、やさしいお姫さまなんだよ。

 

 ――ありがとうございます、藍雪さま。

 

わたし、藍雪さまが大好きだ。

力任せに目もとをこすって、前を見る。

 

「紅花さま、もう一度舞いましょう。舞はまだ、終わっていません!」

「え……?」

 

落ちていた扇を拾って、ぼうぜんとする紅花さまの手ににぎらせた。

「まだまだ、ここからです。大丈夫、今日のわたしたちは最強で最高なんですよ! 一度の失敗なんて関係ありません!」

 でも紅花さまは立ちつくしたままだ。だったら、わたしが先陣を切る!

 深呼吸して、自分の扇を構えた。

旋律とふりつけ……、うん、頭の中でかみあってきた! いける!

 清らかに高貴に美しく。花がほころぶような舞を見せてあげるから!

 

 音と体が重なって、わたしはまた舞台の上で動きだす。

 見苦しいだけなのに……って、そんなことを言いたげな視線がまとわりつく。

 でもいいよ、見ていてくれるなら好都合だもん!

無視されるよりずっといい。ぎゃふんと言わせてみせるから!

 

(ここの手のふりは、そでをなびかせて!)

 

 軽くて長いそでは、うでの動きにあわせて風にふわりとなびく。

 

「わ――」

はい、いま見とれて声を上げちゃった人! ありがとう! きれいでしょ?

(今度は扇に注目してね!)

 ぽんっと扇を空に放りなげる。くるくると回る扇の橙色が空の青によく映えた。それを受けとめて胸の前にかざせば、淡い黄色の布地に橙色が咲く。

 色合い、見とれちゃうでしょ? それも計算済みだよ!

 

(つぎは、背中のりぼんをゆらして、幻想的に!)

 

 くるりと舞えば、背中につけたりぼんが弧をえがく。

それは蝶の羽や天女の羽衣みたいに、軽やかに舞を彩ってくれた。

 夏の風にゆれる涼やかな百命花。その花畑で舞う花の精。

 そんな夢を、みんなに見せてあげるから……!

 藍雪さまが響かせる音は気持ちがよくて、わたしの体もいつもより軽い。

 いまなら、いくらでも舞える気がする!

 

「……あの子、かわいくない?」

 

 だんだんと会場の空気が変わってきた。帰ろうとしていた貴族たちも、足を止めている。

よしよし、途中退場なんてさせないよ! ちゃんと見てて! 衣装も、舞も!

 

(あ、雷斗さまだ!)

 

 いまさら気づいた。白竜さまの後ろには、雷斗さまがいた。

 目が合うと、「その調子だ」って言いたそうに笑ってくれる。

 うん、ありがとうございます!

 

「――ひとりで楽しんでるんじゃないわよ。腹立たしいわね」

「あ……、紅花さま!」

 涙をふいた紅花さまが、とんっとわたしのとなりに並んだ。

 勢いよく扇を広げて、紅花さまはわたしをにらむ。

「あなただけを目立たせるわけにはいかないでしょ。ここは、わたしのための舞台なんだから!」

 ……そうだね、こんなところで泣いているだけのお姫さまじゃないよね。

「うん、いいですよ! いっしょに舞いましょう!」

 

 勝気な表情がもどってきた紅花さまが、一度目を閉じて、開く。

 そうしたらもう、そこにあるのは、天女みたいなやさしい笑顔だ。

(うわ、さすが。どきっとしちゃった)

 紅花さまの舞がはじまる。赤い髪をなびかせて、やさしい笑顔で、舞台の上を舞いおどる。ひらひらと衣装が風を起こすと、百命花の香りが会場中にあふれていくのがわかった。

 

 紅花さま、やっぱりきれいだ。指先にも髪の一筋にもすきのない、完ぺきな舞。

 

その姿がまぶしくて、きらきら輝いて見える。

ほんと、くやしいけど……、すごいお姫さまだよ!

 

「な、なに? 急にふたりともきれいになってる……」

「さっきとは大違いじゃない。なんなの、これ」

 

 もうみんなの視線も怖くない。楽しい。この舞、すっごく楽しいよ!

 

「いいえ、まだよ。こんなもので終わらせてたまるもんですか!」

 

 ふと、紅花さまの声がした。

 

(ん? あれ、え?)

 

 舞いながらとなりを見て、びっくり。

なんか、紅花さま、さっきよりきれいになってない?

 笑顔が変わった気がする。いままでの笑顔もきれいだったけど、いまのこれはなんというか……、わたし、この笑顔を知っているような気がする。

 そのとき、紅花さまがわたしを見た。ふわり、と笑みが向けられる。

 

『芽衣』

 

(……んんんっ⁉)

 

 なぜだか、藍雪さまのやさしい声が聞こえたような気がした。目の前にいるのは紅花さまなのに。紅花さまと藍雪さまの笑顔が、かぶって見える。

(というか、この紅花さま、完全に『藍雪さまそのもの』なんだけど⁉)

え、なにを言ってるかわからない? わたしも混乱中だよ!

でも「紅花さま、すごい!」って会場の熱が高まっていくのがわかった。

みんな、いまの紅花さまに見とれてるんだ。なんなのこれ!

と思ったら、紅花さまが一瞬もとの勝気な表情にもどった。

 

「ほら、ぼさっとしない。つぎ、一番の見せ場でしょ! 決めるわよ!」

「は、はい……!」

 

 その変わりようにびっくりだよ。でも、たしかに舞の終わりが近づいてきてる。

 

じゃあ……、いきますか! 最大の見せ場!

 実はこの衣装、秘密を隠してあるんだよ。

 やっぱり、ただの衣装じゃつまらないもんね。人生には驚きがないと!

 藍雪さまの琴の音も、最後に向けて盛りあげてくれている。

 よし、ここで決めるよ。全員、見ててね。

今日一番の見せ場まで、三、二、一……。せーの!

 わたしと紅花さまは同時に、腰の帯をはずした。とたんに、

 

「えっ⁉ なにあの衣装!」

「うそ、花が咲いたみたい!」

「あれって百命花⁉」

 

 大きく花開いた新しいすそを、わたしはふわっとゆらした。

 さっき帯をはずしたときに落ちてきた『第二のすそ』だ。

 

 そう、今日の衣装、実はね……二重構造になっていたんだよ!

 

 短くすとんと落ちる最初のすそは、内側の『第一のすそ』。

 

 それから地面に届く長さで、くるんと先が外側に丸まった、百命花の花びらと同じ形の『第二のすそ』を外側に。

 

 ふたつを重ねてつくって、外側の『第二のすそ』を隠すように『第一のすそ』をたくしあげて、二重にした帯で留める。

 

 そうしたら、外側の帯をほどくと、隠されていた華やかなすそが落ちてきて、一瞬で衣装が変わったように見えるんだ!

 

まるで、花のつぼみが、いま開いたみたいに見えたんじゃないかな!

「いまの、どうやったの⁉ 魔法みたい!」

「あんな一瞬で……。すごい。というか、かわいい、あの衣装!」

うんうん、みんなびっくりしてる。その反応が見たかったんだ!

でも舞はつづけないとね!

扇を下から上に大きくふりあげると、百命花の花びらが空に舞いあがった。

実は、さっきのすその中に百命花の花びらをたくさん隠しておいたの。

帯をほどいたとき、すそと同時に花びらが現れて、わたしたちのまわりを舞っていた。

まさに花の精って感じに見えているはずだよ。

よーし、この調子で、最後まで舞っちゃうからね!

 

ふわふわ舞う衣装。ひらひら舞いおどる花びら。

やさしい琴の音に、くるくる舞いつづけるわたしたち。

 

客席のみんなが、笑顔になっていくのがわかる。

白竜さまも雷斗さまも、笑って見守ってくれていた。

杏やほかのみんなも、楽しんでくれているかな。そうだといいな。

楽しくなったら、きっといいことが起こる。病も吹きとばせるかもしれない。

 

(みんなみんな、幸せになってほしい)

 

 琴の音が鳴りひびく。もう、終わりの時間が近づいてきていた。

 ああ、楽しかった。本当に、楽しかった!

 

「あなたの衣装、悪くないわ!」

 

 舞台上で交差したとき、紅花さまが笑ってくれた。

 いじわるでも、つくったような笑顔でもなくて、純粋な笑顔だ。

 

「はい!」

 

 わたしと紅花さまは、とんっと背中合わせになる。

 夏の風が吹いて、わたしたちのまわりに百命花の花びらが舞いあがった。

 花びらは会場の客席すべてに届いて、もっともっと高く空に舞う。

 どうかみんなの願いが、空に、神さまに、届きますように――!

 はあ、はあ、と肩で息をする。旋律がゆっくりとほどけていく。

 

 代わりに、大きな拍手が生まれるのが聞こえた。

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